Essay

「人が嫌いだった」僕が、人の話を聴く仕事をするようになるまで

藤田大樹と申します。今、僕は経営者や大企業の管理職の方を中心に、人の話を聴く仕事をしています。また、アクティブリスニング協会の会長として、講座の設計や「聴く」を社会に広げる活動にも関わっています。

そんな僕ですが、最初から人の話を聴くことが得意だったわけでも、人と関わることが好きだったわけでもありません。むしろ大学生の頃は、人と関わることを「煩わしい」「面倒だ」と感じていました。

でも振り返ってみると、「人と関わりたくなかったこと」も、「自分自身が人に話を聴いてもらったこと」も、「聴く仕事を始めたこと」も、今の僕につながっています。

Childhood

自分の気持ちをうまく言えなかった子ども時代

僕は子どもの頃、自分の感情を表現することが得意ではありませんでした。何かを「好き」と言えば、「こんなものが好きなの?」と言われる。「嫌い」と言えば、「文句を言うんじゃありません」と言われる。そうしたことが重なるうちに、自分の気持ちを、そのまま言葉にすることが難しくなっていきました。

「こういう理由があるから、これは良いと思う」「こういう必要性があるから、買ってほしい」。そんなふうに、理由をつけて論理的に話すことはできました。けれど、「疲れたから、やりたくない」「理由はないけれど、これが好き」「もう無理だ」ということは、なかなか言えませんでした。

言えなかったというより、自分がそう感じていることに、そもそも気づいていなかった部分もあったのだと思います。

大学生になると、人と関わること自体を煩わしく感じるようになりました。寮に帰れば誰かが話している。飲み会に誘われても、楽しそうというより「面倒だな」と思う。合コンにも一度も行きませんでした。

将来について考えても、「何にもなりたくないな」と思っていました。一時期は、ホームレスになりたいと思ったことすらあります(もちろん、実際のホームレスの生活を理解していたわけではありません)。当時の僕にとっては、組織や人間関係、いろんなしがらみから離れて、誰にも縛られずに生きることの象徴だったのだと思います。それくらい、人との関わりに疲れていました。

Turning Point

二度、立ち止まった

その後、僕は大学院へ進みました。人との関わりがあまり得意ではなかったので、研究の世界ならやっていけるかもしれない、という気持ちもありました。けれど、そこで一度目のうつを経験します。

研究室を変わったばかりで、その分野についてほとんど知識がない中、本来指導してくれるはずだった先輩も体調を崩し、研究室にあまり来られなくなりました。誰に聞けばいいのか分からない。もともと人に助けを求めることも得意ではない。少しずつ疲弊し、一年間ほど休学しました。

その後、何とか大学院を修了して就職しました。システムエンジニアとして、リチウムイオン電池の研究開発に携わりました。仕事を始めた頃は順調でした。成果も出て、周囲からも評価してもらいました。

でも、成果が出ると期待されます。期待されると、期待に応えようとして頑張ります。頑張ると、また成果が出る。すると、もっと期待される。当時の僕は真面目だったので、その期待に応え続けようとしました。気づかないうちに、どこかで疲れ切っていたのだと思います。

周囲から評価されているのに、「自分には能力がない」「自分には何もできない」「自分には価値がない」と思うようになりました。そして、二度目のうつを経験しました。

本記事は執筆者個人の体験を記したものであり、医療的な助言や診断ではありません。アクティブリスニングは医療行為や治療の代替ではありません。心身の不調が続く場合は、医療・心理・福祉などの専門機関にご相談ください。

Encounter

人生を変えたのは、特別なアドバイスではなかった

二度目のうつの時、僕は一人のカウンセラーに出会いました。僕にとって、とても大きな出会いでした。

でも、今でも印象に残っているのは、ものすごく鋭い質問をされたことでも、人生を変えるようなアドバイスをもらったことでもありません。その人の前では、「何を言っても大丈夫だ」と思えたことです。

どんなことでも受け止めてもらえる感じがありました。「あれもできていない」「これもできていない」。そんな話をしても、柔らかく微笑みながら聞いてくれる。カウンセラーとの間で決めた宿題ができていなくても、「全然大丈夫ですよ」と受け止めてくれる。本当に、それだけのことでした。

でも、僕にとってはとても新鮮でした。それまでにも、僕の周りには優しい人がいました。「大丈夫だよ」「そんなことないよ」「こうしたらいいじゃない?」。そうやって励ましたり、アドバイスをしてくれる人はいました。みんな善意で言ってくれていました。

けれど振り返ってみると、自分が感じていることを、そのまま受け止めてもらった経験は、あまりなかったのだと思います。そして僕自身も、「自分の気持ちを誰かに聴いてほしい」とは思っていませんでした。そもそも、聴いてもらうことにどんな価値があるのか、知らなかったからです。

Change

「僕、これが好きなんだ」と気づけるようになった

話を聴いてもらううちに、少しずつ自分の感情に気づくようになりました。「これ、僕は好きなんだ」「これは嫌だったんだ」「今、感動しているんだ」。

以前の僕は、映画を見て泣く人を見ても、なぜ泣いているのかよく分かりませんでした。でも今は、映画を見て泣きます。スポーツの感動的な場面をほんの数秒見ただけで、泣くこともあります。

自分の感情に気づくようになってから、人と関わることも、以前ほど嫌ではなくなっていきました。やがて少しずつ元気になり、もう一度仕事をしてみようと思うようになりました。

けれど、求人サイトを見て、会社で働いている自分を想像すると、「また具合が悪くなるかもしれない」という気持ちが出てきて、なかなか応募することができませんでした。

そんな時に、たまたま参加した起業について学ぶ講座の中で、人の話を聴きながら、その人の考えや目標を整理していくワークに出会いました。ワークを通じて、話を聴かれることで頭の中がどんどん整理される自分に気づき、とてもスッキリしました。そして自分でも「相手の話を聴いて目標を整理する」仕事をやってみたいと思うようになりました。

最初は、10人の方に3か月間、無料でセッションを受けていただきました。実際に人の話を聴かせてもらって、感想やフィードバックをいただきました。どんなところが良かったのか。何を改善した方がいいのか。この時間に、どれくらいの価値を感じるのか。そうした声をもらいながら、少しずつ自分の仕事を形にしていきました。

その後、有料での仕事も始まりました。ただ、実際に仕事として人の話を聴くようになったからこそ、気づいたことがありました。「聴く」というのは、思っていた以上に奥が深い。深すぎる。

Judgement

「優しく聴く」だけでは足りない場面がある

例えば、僕がうつで弱っていた時。あの時の僕には、カウンセラーのゆっくりした話し方や、柔らかな表情、「何でも話していいんだ」と思える雰囲気が合っていました。その関わり方に、僕自身が助けられました。

でも、すべての人に同じ聴き方をすればいいわけではありません。今、僕がお話を聴いている経営者や管理職の方の中には、優しく受け止めてもらうだけではなく、「本当にそれでいいんですか?」「なぜ、そう考えたんですか?」「もう少し具体的に説明してもらえますか?」と、少し厳しいくらいの問いを求めている方もいます。自分をもっと高めたいから、あえて踏み込んでほしいという人もいるんです。

逆に、弱っている人に同じような問いをしたら、追い詰めてしまうかもしれません。

「優しく聴くことが正解」でもない。「鋭い質問ができれば正解」でもない。目の前にいる人に、今どんな関わりが必要なのか。そこを見て、判断する必要があります。これは、実際にいろいろな人の話を聴くようになって、より強く感じるようになったことです。

Family

家族の話になると、僕だって難しい

もう一つ、聴くことを学んでいても難しいと感じる場面があります。家族です。

友人など、比較的利害関係の少ない相手であれば、相手の話に集中して聴きやすい。でも家族との話で、自分にも関係する問題になると、そう簡単ではありません。自分にも意見があります。譲れないこともあります。

そんな時に何でも「うん、うん、いいね」と聴いているだけでは、自分が疲れてしまいました。相手の考えを聴きながら、自分の気持ちや考えも伝える。時には、聴くこととは別のコミュニケーションの技術も必要になることを痛感しました。

もちろん昔の僕よりは聴くことは意識できていて、頭ごなしに否定したり、アドバイスしたりということは少なくなり、「なぜ、そう思ったんだろう」と相手に興味を向けることもできました。でもそれも毎回完璧にできるわけではありません。

こういう経験を重ねるほど、「人の話を聴くって、ただ黙って聞いていることじゃないんだな」と思うようになりました。そこで初めて、「ちゃんと学びたい」と思ったんです。自分が感覚的にやっていることを、一度きちんと学び直したい。

「聴く仕事を続けていきたい」「もっと良いものを提供したい」「もっと安心して任せてもらえる人になりたい」。そこから僕は、人の心理やコミュニケーション、対人支援について本格的に学び、複数の資格取得にも取り組みました。

Learning

学んでみたら、「できること」より「知らなかったこと」が見えてきた

資格を取ったことで、突然何でもできるようになったわけではありません。むしろ学んでみると、「ここも考えなければいけなかったんだ」「こういう視点も必要だったんだ」「今まで自分は、こういう癖で聴いていたんだ」と、それまで見えていなかったものが見えてきました。

自分で勉強していると、どうしても自分が興味を持ったことを中心に学びます。でも、資格取得に向けて体系的に学ぶと、自分が選ばなかったであろうことにも触れることになります。それによって、自分の中にある「知らなかった領域」が見えてきました。

資格という形が残ったことも、私にとって大きな自信になっています。初めて仕事をご一緒する方にとっても、「この人は何を学び、どんな力を身につけてきたのか」を知っていただく、一つの信頼材料になると思います。

けれど、僕が体系的に学んで良かったと感じているのは、資格を得られたことだけではありません。学びを通して自分の「聴く力」に確かな軸ができ、以前よりも自信を持って、お客様に価値を届け、選ばれ続けられるようになったことです。

Feedback

自分の聴き方は、自分ではなかなか分からない

聴くことの難しいところは、自分では「ちゃんと聴いているつもり」になりやすいところです。優しく話しているつもりでも、相手は急かされていると感じているかもしれません。共感しているつもりでも、いつの間にか自分の経験に置き換えているかもしれません。相手のためにした質問が、実は相手を追い詰めているかもしれません。

自分の聴き方を、自分一人で見ることはできません。だから僕は、実践して、フィードバックを受けることが大切だと思っています。

  • 人の話を実際に聴いてみる
  • 誰かに自分の聴き方を見てもらう
  • 他の人の聴き方を見る
  • 「あの質問はなぜしたんだろう」「自分なら、ここでどう聴くだろう」と考える
  • そして、もう一度やってみる

そうやって、少しずつ磨いていくものなのだと思います。資格を取得する過程で、同じように学んでいる仲間と共に実践し、フィードバックをし合える仲間に出会えたことも、僕にとっては大きな財産になりました。

Ongoing

資格を取った今も、僕は学び続けています

僕は今、人に「聴くこと」を伝える立場にもいます。それでも「僕はもう完璧に聴けます」とは思っていません。目の前の相手が変われば、必要な関わり方も変わります。自分自身の状態によっても、うまく聴ける日とそうではない日があります。

たしかに、話を聴くこと自体は、誰にでもできます。でも、人の心や人生に触れる話を聴き、それを仕事にしていくとなると、見えてくる世界は全く違います。何を言うか。何を言わないか。どこまで聴くか。いつ問いかけるか。今は待つのか。

聴く仕事で、目の前の相手に合わせて判断するためには、感覚だけでは足りないことばかりです。だから今も、学び続けています。

もし、「自分は人の話を聴くのが好きだ」「話を聴くことを、いつか仕事にしてみたい」と思っている人がいるなら。まず、その気持ちはとても大切にしてほしいと思います。

そして実際に人の話を聴いてみた先で、「聴くって、思っていたより深いな」と感じる瞬間がきっとあると思います。その時は、体系的に学んでみる。自分の聴き方を、客観的に見てもらい、改善しつづける。僕自身も、そこから今の仕事につながっていきました。

「自分は、ちゃんと聴けているだろうか」。その問いを持ち続けることが、僕にとって、聴くことを学び続ける理由なのだと思います。

Association

だから協会は、「聴く」を学べる技術として体系化しています

ここまで書いてきたのは、僕という一人の個人の経験です。けれど、この経験から確かに言えることがあります。聴くことは生まれつきの才能ではなく、学べる技術だということ。そして、自分ひとりの内省だけでは上達しにくい技術だ、ということです。

自分の聴き方は自分では見えません。目の前の相手に今どんな関わりが必要なのかという判断も、感覚だけでは足りません。だとすれば必要なのは、「もっと優しくしよう」という心がけではなく、何をどの順番で学べばいいのかが示された道筋と、自分の聴き方を客観的に見てもらえる場です。

一般社団法人アクティブリスニング協会は、そのためにあります。アクティブリスニングを専門技術として体系化し、誰もが学べる形に整え、身につけた力を証明する資格制度を運営しています。僕が遠回りをしながら手探りで身につけたことを、これから学ぶ人がもっと確かな道筋でたどれるようにするためです。

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